【勇退選手インタビュー】WTB小原政佑 「深い7年間でした」

WTB小原政佑
「深い7年間でした」

 
「結構いろんなことを経験できたなと思っていて」
トヨタヴェルブリッツで過ごした7シーズンを終え、小原政佑は振り返る。

大阪生まれ。茨木ラグビースクールで小2からラグビーを始め、東海大仰星、東海大とトップチームで活躍した生粋のスピードランナーである。高校日本代表、U20日本代表と世代間でもトップを走り、この春、その翼をたたんだ。


小原がトヨタに入社したのは、2015年。ヴェルブリッツのラグビーが変革期を迎えようとしていた時期だった。入社3年目の2017年度、ラグビー部の長い歴史の中で、初めての外国人であるジェイク・ホワイト氏を監督に招へい。南ア代表を率いてW杯を制覇した知将の就任で、強化は一気に加速する。ジェイク氏就任初年度のシーズン、小原もまたブレイクした。全15試合中12試合に先発出場。7トライを奪う活躍で、上昇気流の一翼を担った。


だが2019年6月、元部員による薬物問題が起こり、一定期間の活動停止を余儀なくされた。活動再開時には指導体制も変わった。そこでの体験が大きかったと振り返る。
「あのとき、ラグビーをやれる有難さも感じたんですが、会社に行く比率が増えたことで、仕事にフォーカスするタイミングを考えさせられた。
一生、ラグビーができるわけじゃない。会社の中の情勢を間近で感じて、自分の人生を考えたとき、ずっとラグビー部でいいのかなと」


そう思ったのは、身体のコンディションもあったかもしれない。ブレイクの前年、開幕戦の先発を勝ち取りながら、3戦目で大きなケガをしてシーズンが終わった。以後、痛めた足首と折り合いをつけながらの日々。2018年も開幕前のプレシーズンマッチで足首を痛めた。肩も脱臼し手術が必要になり、いい機会だからと足首にメスを入れると「軟骨がほぼない状態だとわかりました」


足首を保護するクッションがないため、慢性的な痛みが続いていたのだった。
「練習をやったら、次の日に反動が来て、走れなくなる。制限をつけながらの練習でした」 
毎週水曜、足首にヒアルロン酸を打ちながらグラウンドに立つ日々。リーグワン初年度、始まる前に心に期するものがあった。
「これが最後の気持ちで頑張るしかないなと」


幸い、サイモン・クロンHCの要求する練習はこなすことができた。めぐってきた公式戦出場の機会は一度。2月26日の第7節・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦。小原にとっては、2019年度以来の公式戦出場だった。
「ラグビー楽しいなって思いました。途中で浮き足立つこともありましたが、ボール持てばゲインもできた。“もっとボールをくれよ”という感じでした」



だが身体は、その気持ちに応えてくれなかった。開始3分に肉離れ。実は前の週から、肩も上がらなくなっていた。それでも出なければ次のチャンスはないと、後半30分まで出場を続けた。
「自分は、ここまでなのかなと思いました。身体が“もう限界”と言ってたかもしれない…」

5月18日、発表された10名の退団選手の中に小原の名前があった。心はまだラグビーに別れを告げたわけではない。
「今はラグビーやりたい気持ちはないんですけど、ケガを除けば、まだまだ第一線でやれる自負はあります。個人競技は疲れたら休めるけど、団体競技のラグビーはそれができない。そういうのもあればな、とは思いますね。少し休んで身体の準備が整って、テストに合格したら戻っていいよ、というのがあれば」


生活は完全に切り替わった。現在の部署は開発試作部。試作車を作る部署で予算管理の部門を担当している。上司からの言葉や引継ぎの仕事に、周りの期待を感じる。
「仕事の合間に勉強して、簿記の資格も取らないといけない。小学校のとき、国語より算数が得意でしたが、レベルの低い理数系(笑)。これからが大変です」

先日、久しぶりにクラブハウスに尋ねると、複雑な気持ちになった。
「自分のロッカーもないし、以前とレイアウトも変わっていた。もう自分のクラブハウスじゃないんだ、と」

そう感じるのは、まだ気持ちは「現役」だからかもしれない。


「未練はありますね。代表に入りたかったし、もっと試合に出たかったし、ケガなくラグビーをしたかった。でも起こる現象を受け入れるしかない。なんでも面白さを感じるタイプなので、仕事も面白くなると思う」

少し落ち着いたら、何かスポーツを始めたいと考えている。空手は小さい頃に習っていた。サーフィンにも挑戦してみたい。
「外国人監督が初めて来られて、チームの変革期を体験できた。パンデミックも、リーグが変わるという経験もできた。深い7年間でした」

いまは次への助走期間。いずれまた、トップスピードで挑戦したいと思う何かが現れる。


 
 
こはら・せいゆう/1992年8月28日生まれ・29歳/183㌢92㌔/東海大仰星→東海大/在籍7シーズン
 
文/森本優子

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