第9節マッチレポート
「全員が“もう1%”の力を」
3月9日、トヨタヴェルブリッツはリーグワン第9節でクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)と東大阪市の花園ラグビー場で対戦、31-27で勝利を挙げ、通算成績を5勝4敗の6位とした。
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気温9度。後半には雪も舞った花園ラグビー場で、最後に拳をつきあげた。
試合後の会見で両チームのヘッドコーチは「腕相撲(アームレスリング)のような試合だった」と評したように、FWががっぷり四つに組み合った肉弾戦だった。
トヨタは前節で神戸Sに22-57と大量失点で敗戦。一方、昨季王者のS東京ベイも今季はケガ人に苦しみ、前節は相模原DBに黒星を喫している。ともにここまで4勝4敗、立ち直りを賭けた大事な試合だった。
前半苦しんだのはトヨタ。相手陣にボールを持ち込んでも、自分たちのミスで一気にエリアを戻される苦しい流れ。FWの健闘が得点に繋がらない時間帯が続いた。
7-8で前半を終了。前節も12-15と、僅差での折り返しだった。ロッカールームでFL姫野和樹キャプテンが檄を飛ばした。
「先週はここからどんどんミスして自滅した。二の舞にならないよう修正しないといけない」
神戸S戦終了後、姫野キャプテンは「これを許しちゃいけない」と仲間に厳しい言葉を投げかけた。だからこそS東京ベイ戦を控えた週は、自らが率先して行動した。
「練習前、みんながまだ来てない状態で自主練習に取り組んだ。練習が終わったあとも最後まで残って練習しました。家に帰ってからも、何をすべきかノートに書いた。ブレイクダウン、ジャッカル…。弱みを強みに変える作業をしました」
情熱のリーダーシップだった。
その檄は、すぐに実を結んだ。キックオフのボールをFLウィリアム・トゥポウが確保し、SOボーデン・バレットが相手ゴール前に短くキック。ポスト手前で弾んだボールをFB髙橋汰地が判断よくしてインゴールへ。わずか19秒でトライが生まれた。前節、後半開始直後に神戸Sにトライを奪われたデジャブを拭い去るプレーだった。
6分、S東京ベイにトライを許すが、9分、一気に相手ゴール前に攻め込んでSHアーロン・スミスがインゴールへ。だがTMO判定で、トライはキャンセルに。再び停滞しそうな流れを断ち切ったのは、ベテランHO彦坂圭克。10分、相手キックをチャージすると、そのままトライを決めた。
「奇跡です(笑)。たまたまチャージに行ったら当たっただけ」
試合2日前の会見で「自分がボールを持って動く機会が増えれば、チームも波に乗ると思う」と語っていた通りのプレー。これでスコアは21-13。再び流れを引き戻した。
だが後半24分、アクシデントが起きる。後半17分にアーロン・スミスに代わってピッチに入ったSH福田健太が密集で足を痛め、担架で退場、残り20分が専門職不在の状況に。ここでも姫野キャプテンは冷静だった。
「起こってしまったことは変えられない。トリッキーなプレーはできないから、FWを当ててシンプルに立ち返ろうと」
急きょSHを務めることになったのは、CTBチャーリー・ローレンス。これまでSHのプレー経験はなし。練習でもやったことはなかった。
「ピッチの外に出ているアーロンに“どうやってボールを入れるんだ”と聞いたら、”真っすぐ入れればいいから“と」
後半32分、28-20と点差を詰められた後、自陣ゴールを背にしてのマイボールスクラム。劣勢になればピンチを招く場面だったが、チャーリーは難なくパスアウト、バレットのキックでエリアを戻した。
「ボーデンが“右に投げればいいから”と言って、その通りにしただけ」とチャーリー。一致団結したFWとクールな背番号12が土壇場で輝きを放った。
その後41分にトライを奪われ、ボーナスポイントは許したものの、31-27で勝利を収めた。
「神戸に負けた後、それぞれが出来ることを1~2%増やそうと」(姫野キャプテン)。6日前、うつむいて去った花園ラグビー場を、笑顔で後にできた。ショートウイークで立ち直った経験は、確かにチームに蓄積された。
次節は3月16日、3位の東京サントリーサンゴリアスを豊田スタジアムで迎え撃つ。
「まずは自分たちにフォーカスする。神戸にやられてうまくいかなくて、最初にやったことは自分たちと向き合うこと。それがいい効果をもたらしたので、そこにフォーカスしてやっていきたい」(姫野キャプテン)
全員が「もう1%」の力を出し続ける。
(写真説明)
1 後半10分、HO彦坂圭克のトライにFL姫野和樹キャプテンも喜びが弾ける
2 後半開始19秒でトライを決めたFB髙橋汰地
3 「人生で初めて」SHに入ったCTBチャーリー・ローレンス(背番号12)
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