退団選手インタビュー
鈴木啓太[CTB]
二度目の「新たな」挑戦。
鈴木啓太が5年間の選手生活を終えた。CTBとして茗溪学園、筑波大で活躍。「泥臭いプレーが持ち味。10番の意図をくみ取れるクレバーさ、リーダーシップもある」と馬場美喜男BKコーチの評価も高かったが、入社以来、ケガに悩まされ、公式戦出場はならなかった。
「入った1年目にケガ、3年目はコロナでシーズンが途中で終わって、4年目は1年間、棒に振って」
大きかったのは4年目の昨シーズンに負ったケガだ。2022年1月1日、開幕を1週間後に控えたプレシーズンマッチで膝の前十字じん帯を断裂、膝蓋腱も痛めた。
「タックルされたときに倒れないよう頑張っていたら、膝が耐え切れなくなった」
全治1年。長いリハビリを終え再起を期した今シーズン、再びケガに見舞われた。
「さあ頑張ろうというところで、同じ個所を痛めてしまった。このままやって(膝が)ぶっこわれるのが先か…という感じで、続けるのは難しいな、と。ケガをして離れていると、ラグビーが下手くそになって帰ってくる感じで、振り返ってみると難しかった」
それでも最終戦前日、静岡ブルーレヴズとのミライマッチに出場した。
「最後は試合で終われてよかった。2~3日は感慨深いものがありましたけど、意外とあっさりしてて、そんなに名残惜しさもなく日々進んでいます」
鈴木が楕円球を手にしたのは、地元の日立RS。小学校1年のときだ。父も明治学院大出身のラグビーマン。
「落ち着きのない子供だったみたいで、スポーツをやらせようと、行きついたところがラグビーでした。親は野球をやらせたいと思ったんですけど、このエネルギーは野球では発散させられないだろうと」
そのまま地元の茗溪学園中、高と進学。高3の花園大会(2012年度)では、準々決勝で東福岡に勝利。4連覇を阻止し、ベスト4入りを果たした。
1年の浪人を経て、自己推薦で筑波大学に合格する。浪人中はトレーニングからは遠ざかっていた。
「1年のブランクはすさまじかった。体重も激減して、ウエイトも全然上がらなかった」
だが半年でそのハンディを克服し、1年からレギュラーポジションを獲得する。卒業後は「茨城出身なので、どこでもいいなと。先輩も多くて、お誘いをいただいたので」トヨタに入社。
「一緒にプレーしてて、すごい選手が集まるリーグなんだなと感じました。入った頃は、自分が持っているものを全部出していこうと」
高校、大学時代からケガは多く、リハビリ生活も長かった。
「ケガに慣れるというか、どのくらいで復帰か、人よりは復帰までのプランが描ける。そこに関しては、ほぼプロでした(笑)」
トヨタでもリハビリの場に後輩が来ると、頃合いを見計らって声をかけた。
「リハビリは他の選手と練習の時間帯が違うので、しんどくなってくるタイミングがあるんです。そういうときは出来るだけ近くにいて、声をかけるようにしてましたね」
周りを見られる力は、これからも発揮されそうだ。現在の職場はトヨタヴェルブリッツ事業部。ラグビーの普及、ファンづくり、従業員への周知など、競技周辺の様々なことを担う部署だ。事業部の一員としてクラブハウスに通ううち、気づいたことがあった。
「たくさんのお客さんに来てほしい。勝ちたい。選手と事業部の目指すところは同じですが、登っている場所は別々。選手時代に思っていたことと、いざ事業部に来て見える景色は全然違う」
プレーヤーは試合に向け、体調を最優先にしたい。だが選手の協力がなければ、普及活動やファンサービスは立ちゆかない。
「自分はその両方が分かる。その道を切り開くのは大変だなと」
以前の職場はC&A事業部。自動車のオプションを担当する部署だ。
「仕事は好きでした。仕事を任せていただけたので、自分なりのアプローチでこなしていた。大変さはあったけど、やるのは当たり前。仕事を振ってもらえたおかげです」
職場での評価は高かった。その能力を買われての挑戦だ。
「今は色々な人の話を聞いています。事業部だけで動けないところがあるのかなと感じる。選手もいますし、マネジメント側の思いもある。うまく連携していかないと」
DORを務めるスティーブ・ハンセン氏とも、これまではスタッフと選手だったが、これからは事業部の一員として接することになる。
「ラグビーのことは聞かなくなりますね(笑)。ハンセンはチームを思ってくれている。こちらがよかれと思って進めても、立場が違えば、そうじゃないかもしれない。その折り合いが難しいんだろうなと。だからこそ、自分がまかされた。選手がやりたいこと、事業部がやりたいこと、それぞれあるけど、選手側は事業の大変さを知らない。いまは“こういうことだったのね”と思いながら、やってます。簡単ではないけど、お互いの考えがうまく組み合わされば一気に進む」
選手時代に目指していた頂上を、これからは新たなアプローチで切り開いていく。
0コメント