CTB増田大暉
最後はフォアザチームで。
トヨタヴェルブリッツで8シーズンを終えて退団したCTB増田大暉。WTBもこなし、その体幹の強さとスピードから、「リトル・ロムー」と呼ばれていた男は、昨シーズンを現役最後と決めていた。それは前シーズンの悔しさを晴らすためだった。
過去、先発に名を連ねたこともあったが、近年は出場メンバーから外れていた。コツコツと努力を重ね、待望の出場機会をつかんだのは、トップリーグ最後となった2021シーズン。昨年4月25日、プレーオフトーナメント初戦・日野戦に、23番で入ることが決まったのだ。
だが、当日のメンバー表に増田の名前はない。当初メンバーに入っていたＦＷの外国人選手が負傷。外国人枠の関係で、23番には外国人選手が登録された。ようやくつかんだチャンスは、手のひらからこぼれ落ちた。
「もう1年、がむしゃらにやろうと思いました」
悔しさを秘め、勝負の年と臨んだのがリーグワン初年度。開幕までは順調で、首脳陣からも「公式戦で使いたい」と期待を寄せられていた。だが1月末の練習中に肉離れ。2月末にグラウンドに戻ると、すでにメンバーは固まっていた。
「身体のケアは毎日していたのですが、練習量が厳しかった。僕がケガをしているうちに、他のメンバーが良くなってきて…」
ラストゲームは、リーグワン公式戦前日（4月22日）に行われた、静岡ブルーレヴズとの練習試合。すでに退団が決まっていた選手たちが出場、「これぞトヨタ」のスタイルで大勝し、それまで苦しんでいたチームの空気を変えた。それは姫野和樹共同主将も「昨シーズンのベストゲーム」と称した一戦だった。
「あの試合で、Aチームに力を与えられたのかなって」
公式戦出場はかなわなかったが、最後はフォア・ザ・チームで締めくくれた。
新田から京産大に進学した増田を選手として大きく成長させたのは、2度のNZ留学だ。
最初は大学4年時。当時の大西健監督に期待をかけられ、クライストチャーチに5か月留学。ホームステイ先の近くにジムがあり、時間があれば身体を鍛えた。
「あの留学でプレースタイルが変わりました。行く前は85㌔だったのが、95㌔になった。日本に戻ってきて試合をしたら、手ごたえが全然違った」
2度目はトヨタ入社2年目の2015年。ウェリントンで、ハリケーンズのアカデミーに所属しながら、クラブチームの試合に出場した。スーパーラグビーでハリケーンズが優勝した年。マア・ノヌー（元NZ代表CTB）の隣で筋トレに励んだ。
「あのときは体脂肪のことを結構言われました。到着した最初に測られて“もっと減らせ”と」
具体的に食事のアドバイスをもらった。勧められたのはノンオイルのツナ缶。お菓子が食べたいときは、ライスクラッカーやプロテインバー。日々、忠実に実行した。日本に戻ると、プレーの切れが増していた。この一途さがプレーを支えた。
2017年、ジェイク・ホワイト監督が就任すると、才能が開花した。第3節のキヤノン戦で初先発するとローテーション入り。9試合に出場しトライも奪った。
「スピードを活かしてフィジカルで勝負するのが強みでした。自分にとってあの1年は大きかった」
だが翌シーズンは、新人選手との競争になり、出場機会は減った。そして、ジェイク監督が退任する。
「監督によって、“こういうプレーをする選手を使いたい”というのは違う。そこには合わなかったのかなあと感じていた部分はありました」
それでも、がむしゃらにやった1年だった。
5月に退団が発表されると、大学の同期だったWTB山下楽平（神戸）からメッセージが届いた。大学4年時、ともにNZ留学していた仲間だ。山下はこの春、日本代表に初選出された。「ちょっと悔しいです（笑）。“お疲れ”とコメントをくれたので、“僕の分まで長くラグビーしろよ”と返しました」
職場は三好工場の生産管理部。現場に対して部品の手配や取引先の発注などを担当する。娘も1歳を迎えた。これまでラグビーに割いていた時間を、家族のために使いたいと考えている。それでも、ラグビーとの縁が切れたわけではない。
新田高時代の亀岡政幸監督とはいまも連絡をとりあう。
京産大、トヨタの先輩である廣瀬佳司監督からも「いちど練習に来てくれ」と声をかけられている。自身、クラブチームでプレーすることも選択肢にある。
「とりあえず２～３か月は身体を休めて、プレーするか、教える側に回るか決めようかなと」
いまは再び走り出すための準備期間かもしれない。
ますだ・たいき／1990年6月7日生まれ・32歳／176㌢93㌔／新田→京産大／在籍8シーズン
文/森本優子
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